街中があまいやわらかな香りに包まれる、心地のよい季節。
今年も金木犀が咲いてくれました。
金木犀の香りで思い出す患者さんがいます。
がんと診断されたときには、余命3ヶ月といわれ、解離性障害と診断を受けてほとんど言葉を発さなくなったAさん。
高校生の娘さんに向ける母親の顔、自分の力でトイレに行くという意思、介助させていただいたときに小声で言ったくださる「ありがとう。」
「今日は天気がよいので屋上に外の空気を吸いに行きませんか?」とお誘いすると、
静かにうなずいてくださいました。
車椅子で屋上にお連れすると、晴天の青空に金木犀の香りがフワッと。
Aさんは、空を見上げながら笑みを浮かべて大きく深呼吸をされていました。
言葉のない、静寂な時間の中で、Aさんのひと呼吸ひと呼吸が、とても尊く神々しくみえました。
3週間程度の短い関わりの中でしたが、お看取りまで関わらせていただき、出会わせていただいたことに心から感謝しています。
彼女が抱えていた深い深い苦しみは私には計り知れませんが、
どうしたら彼女の苦しみに少しでも寄り添えるのか、彼女のしぐやさ表情、行動のひとつひとつ、言葉のひとつひつ、さまざまな角度から彼女の全人的苦痛について考え、学ばせていただきました。
その際、指導教官に「苦しみに浸りなさい」「その方の苦しみを噛み締めて、味わいなさい」と指導を受けました。今も、大切にしている言葉です。
患者さん(利用者さん)が抱える痛みや苦しみや苦悩はその人にしかわからないけど
心から寄り添いたいとねがうとき、上辺だけでわかったふりをするのではなく
ていねいにていねいに話を聴き、謙虚に学び、心を寄せて関わる。
自分が苦しむことから逃げない覚悟が、苦しむひとのそばに寄り添う力になるのかもしれないと。
まだまだ、まだまだ、未熟ながらに、真摯に、懸命に、そして誠実に、目の前の人に向き合うことを大切にしていきたいと思います。
もう10年以上も前のお話。
忘れることのできない大切な出会いの積み重ねが、私を強くしてくれているように思います。
金木犀の写真を載せたらブワッと言葉が溢れてきたので、徒然なるままに書きました。
また、少しずつ、書いていければと思います。
YUKO